要約

握力は簡単に測れる全身筋力の指標で、加齢や疾患リスクと強く関連します。ここでは国の調査データを使って年齢別の平均握力を示し、握力が低いことが示す健康リスク(死亡・心血管疾患・機能低下・サルコペニアなど)を主要論文で確認します。最後に、臨床やセルフチェックでの使い方のポイントをまとめます。


データと方法(出典)

年齢別の平均値は文部科学省(スポーツ庁が公表する「体力・運動能力調査」)の表を用いました(表は調査で測定した右握力と左握力の片側最大値等を集計したものの平均値)。下に成人(20歳以上)の主要年齢群の平均を表で示します。出典:体力・運動能力調査(年齢別テストの結果)。mext.go.jp


年齢別平均握力(成人:20〜79歳、単位 kg)

表は政府公表の統計表(体力・運動能力調査)から引用・抜粋(男性/女性)
(測定法・機器が調査ごとに差が小さいとはいえ、測定条件で値が変わるため「同一条件での比較」が重要です)

年齢区分男性 平均 (kg)女性 平均 (kg)
20–2448.1128.88
25–2947.9628.77
30–3448.2429.04
35–3948.2029.66
40–4448.0129.97
45–4947.4329.39
50–5446.6228.50
55–5944.4726.89
60–6442.1225.85
65–6939.3424.68
70–7436.5623.26
75–7934.2621.98

(表は政府統計の公開表から抜粋・要約。測定年は該当公開資料に準拠。)mext.go.jp

読み方のポイント

  • 男性はおおむね20〜44歳でピーク(約48kg)を示し、その後は年々減少します。女性も20代後半〜40代にかけて30kg前後がピークで、以降の低下が目立ちます。

  • 50代以降に明瞭な低下が始まり、75–79歳では男女とも若年期平均の約70–75%程度まで低下しています。


握力が低いとどんなリスクがあるか(エビデンス)

  1. 全死亡(all-cause mortality)との関連
    握力が弱い人は総死亡リスクが高い、という多くの大規模研究・解析があります。最近の解析でも、絶対握力(absolute HGS)が全死亡の予測に有用であると示されています — 握力が低い群ほど死亡リスクが上昇するという結果です。Nature+1

  2. 心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)リスク
    中高年を対象にしたメタ解析やコホート研究では、握力が高いほど心血管イベントのリスクが低いことが報告されています(調整後も有意)。したがって握力は心血管リスクの簡便なスクリーニング指標として使えます。PMC

  3. 要介護・機能低下(転倒・移動能力低下)との関連
    高齢者で握力が低下していると、歩行速度低下や日常生活動作(ADL/IADL)悪化、転倒リスク増加など機能的な悪化が予測されます。現場では握力を「要介護リスクの早期指標」として用いる研究が多数あります。J-STAGE

  4. サルコペニア(筋力低下)の診断カットオフ
    欧州のコンセンサス(EWGSOP2)は、低筋力を評価する握力のカットオフを 男性 <27 kg、女性 <16 kgと提案しています(アジア人集団ではAWGS等で少し異なるカットオフ:男性28kg/女性18kgなど)。臨床ではこのようなカットオフを基にサルコペニアのスクリーニングが行われます。PMC+1

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黄色の線が男性、青色の線が女性


  • 個人のチェック:上の表と照らすと、自分の握力が同年代の平均よりかなり低い場合は「筋力低下の兆候」と考え、歩行速度や日常動作の確認、医療機関・リハビリ相談を検討する価値があります。
  • リスク判定:握力がEWGSOP2やAWGSのカットオフを下回る場合、サルコペニアの可能性が高まり、転倒・要介護・入院・死亡リスクが上がるという研究的裏付けがあります。PMC+1

  • 予防・介入:握力は抵抗運動(筋トレ)、全身筋力トレーニング、栄養(蛋白摂取)で改善する可能性があります。介入が長期転帰(死亡や心血管イベント)を直接下げるかはまだ研究が続いていますが、身体機能改善はQOLや自立性維持に有効です。EatingWell+1

 

握力だけでも、
いまの自分の体力がどの位置にあるのかが分かります。

体づくりで大切なのは、まず
自分の現状を正しく知ることです。

世の中の情報に振り回されず、
自分に合った方法を選び取っていきましょう。

己を知ることが、健康づくりの第一歩です。

 

 

 


  主要出典(本文で使った代表的文献)

 

  • 体力・運動能力調査(年齢別テストの結果) — 文部科学省 / スポーツ庁(年齢別握力平均データ)。mext.go.jp

  • Zhang F. et al., Association of handgrip strength and risk of cardiovascular …(メタ解析/コホート、2024)。PMC掲載。PMC

  • Chai L. et al., Comparison of grip strength measurements for predicting …(Nature 2024) — 握力の死亡予測能に関する比較解析。Nature

  • Cruz-Jentoft AJ et al., EWGSOP2: Revised European consensus on definition and diagnosis of sarcopenia(2018/2019) — 握力カットオフ(<27kg men, <16kg women)。PMC